人工知能というテーマについて話をうかがうため、中国最大のインターネットセキュリティ会社である奇虎360社を訪問した。周鴻禕董事長に商品の開発ロジックを明らかにしてもらい、その創業からの経験と革新的な発想を聞いた。
――人工知能がブームになっていますが、社長にとって今は人工知能に取り組むチャンスでしょうか、それともバブルですか?
どちらとも言えますね。
みんなが人工知能というチャンスをつかみたいから、バブルが発生するわけです。そして頭が良い人、莫大な資金、数多くの会社がそのバブルに集中し、そこで産業の発展が推進されます。昔の携帯電話であれ、インターネットであれ、急速に普及した時期というのは実に良いチャンスであり、バブルでもあったのと同様です。
――人類は機械に取って代わられるのでしょうか?多くの人がそれを心配しています。 機械には意識とエゴが出来るのでしょうか? そして、機械は人類より速く進化して人類を潰してしまうのでしょうか、それとも人類の味方となりますか?
それはSFの見過ぎかな。まったくの杞憂だと思います。
正直、人工知能は基本原理において、まだ飛躍的な進展を遂げていません。現段階では、人工知能は万能とは言えません。人類のように自己思考能力を持ち、意識が出来るというわけでもありません。私たち人類でさえ、意識がどのように出来るか分かっていないのですから。
今のところ、人工知能の優れたところはビッグデータの処理能力と強大な計算力だけです。ビッグデータを利用し訓練をすれば、確かに多くの分野で飛躍的な効果が出せます。しかし、根拠もなく人工知能をSFのように誇張する人もいます。これを過信してしまうと、人工知能ブームはただのバブルとなってしまうでしょう。
――人工知能がブームになってはいるものの、人工知能への投資はデタラメではないかという疑問を持つ人は多いですね。例えば、最近では人工知能、マンマシン対話を利用した遠隔医療が流行っています。
これは詐欺に決まっています。医者であっても、患者と会わないまま遠隔で適切な診断はできないし、機械には長時間・連続的な会話が可能なキャパシティはありません。
ですがたとえばIBMの場合、人工知能だけで医療問診を解決するわけではなく、問題の範囲を絞って、MRIあるいはCTにだけに人工知能を利用しています。既に多くの医学写真のデータベースがあって、診断が確定した病気だったら、コンピュータで対応できる。これがディープラーニングですよ。
――人工知能の時代が来れば、無線インターネットの時代が終わりになるとも言われています。これについてはどう思いますか?
それはただ注目を集めるための言い方です。正確ではありませんね。なぜかというと、人工知能は、無線インターネットと、IoTと、各地方の伝統的な産業との組み合わせがあってはじめて機能するからです。インターネットがなければビッグデータを手に入れられず、ディープラーニングもできません。
人工知能は、ビッグデータを持っていて、それを活用する用途がある場合にはとても役に立ちますが、あまり神格化するべきではありませんね。
――GoogleのAlphaGoは天元戦の優秀者に勝ちました。これは人工知能にも自己認識能力があるということですか?
大量の棋譜を読み、大量の対局訓練をされた人工知能は、人間より良い打ち手を見つけることができるのは確かです。これがディープラーニングの威力です。しかし人間との最大の違いは、人間にはその打ち手が良い理由が分かりますが、人工知能には分からないということです。
さらに言えば、人工知能にプログラムした人にも理由がわかりません。なぜかというと、人工知能はモデルに訓練されたものでしかなく、自らの意志で打ち手を選んでいるわけではないからです。
――しかし、ムーアの法則により、すべての機械は18ヶ月ごとに改善されています。いつか自己認識能力を持つようになるのではないでしょうか?
現在のところ、人工知能の基本原則と基本理論に突破口はありません。データ量と計算力は突破しました。しかし量的変化から質的変化へのは難しいと思います。機械は訓練された後、入力と出力ができます。それでも、自己認識と自己思考能力を生み出すことはできません。
――人工知能を開発する過程で、どんな陥穽があったか教えてください。
最初に完全な機能のものを作ろうとするのは、陥穽と言えるでしょう。最初は小さな目標を設定するべきだと思います。
現在、弊社は主に画像認識用人工知能の開発を行っています。家庭用カメラ、ドライブレコーダーのカメラが記録した内容を自ら認識できるように、人工知能を導入し始めました。これはその陥穽を避けるための選択です。
他の企業が陥穽にはまるのを何度も見ましたが、二つの種類があります。一つは、ターゲットをあまりにも大きく設定したこと、もう一つは間違った分野に人工知能を位置づけたことです。
――これほど多くの人工知能を用いたハードウェアが市場にはあるのに、なぜ奇虎360はテレビやエアコンなどではなく、時計・レコーダー・カメラの三つのみを取り扱っているのでしょうか?
まず、企業は何でもできる百貨店みたいな存在ではいけないと思っています。企業には集中力があるべきです。
第二に、奇虎360のハードウェアは、何よりもまずセキュリティ上の問題を解決するためのものだということです。私たちは仮想世界のセキュリティを解決するためのソフトウェアを開発し続けてきましたが、IoTの技術によって現実世界のセキュリティ問題も解決したいと考えています。
だから、時計を作っているのは子供の安全を守るためです。弊社の時計で、親はいつでも子供の居場所を確認できます。非常時には、子供も時計で直接電話することができます。
カメラを作るのは、家族の生活や暮らしを守るためです。例えば、子供は留学に行ったとしたら、親はカメラを通して子供の姿を見ることができます。また、別居している高齢の親の生活状況を確認することもできます。
奇虎360は中国における最大のネットワークセキュリティ会社ですが、ネットワークセキュリティの問題を解決するだけでなく、生活の安全上の問題も解決できるようになって、あらゆる面で「最大のセキュリティ会社」と呼ばれるようになりたいと願っています。
――新著の『智能主義』をご紹介ください(イラスト)
最近、智能ハードウェア、人工知能、未来のIoTについていくつかの感触があって、この本を出版しました。エッセイ的な内容です。ぜひお読みになり、そして、私にアドバイスをください。今後もさらに弊社の製品を改善できるように頑張ります。